就職活動のほっとするお話

Bは合理的ではあるが、Uをとると、Aが非合理的である場合、あるいは合理的ではあるが右のように協力的なアクションをとる場合に実現しうる協力の利益を失うことになるため、最初から最終段階あたりまで協力的なアクションをとることがある。 ここでは、相手がどのようなタイプの人間であるのか確実にはわからないという不完備情報が協力を生起させる。
ひょっとして相手は非合理的な人間かもしれないという思い込み、また非合理的な人間が世の中には存在すると思われているときに、自分が合理的な人間であると相手に見抜かれてしまい相手が協力しなくなるという恐れが協力を引き起こす。 概略的な説明をもう少し加えてみよう。
合理的なプレイヤーが初期段階でUをとることは利益と損失をともなう。 利益は、もし相手が協力的に行動すれば、初期段階で相手を利用することができることから生ずる。
一方損失は、Uをとることによって自分が非協力的に行動することを相手に知らせてしまい、以後の長い期間にわたって相手と協力することができれば得られるはずの利益を失うことから生ずる。 もしこの損失が利益よりも大きければ、合理的なプレイヤーでも最初からある時点(残りの期間が短くなり協力の利益があまり期待できない時点)まで協力することになり、ゲームで協力均衡が実現しうることになる。
換言すると、あるプレイヤーが第1段階でIをとれば、一時的に相手に利用される危険もあるが、第1段階に相手も協力的なアクションをとる可能性があるので、その場合には長期間協力関係が持続して、利用されることによる損失を上回る利益が得られることがあるといえる。 そのため合理的なプレイヤーでも協力的なアクションをとり、その結果として協力均衡が実現しうるここの理論においては、エゴイストの間にも協力関係が実現しうる。
純粋に個人的な利益に基づいた協力である。 自分が協力しなければ相手も協力しなくなるので協力関係が維持される。
合理的なプレイヤーが、自分には協力的な性向があるという評価・評判を確立しようとしている、と解釈することもできる。 (ただし、非合理的な.プレイヤーがもともと協力志向的な人間であるのに対し、合理的な人間はそうでないにもかかわらず、このような評価・評判を確立しようとする。
)K氏らのこの理論はかなり説得的であり、現実の平均的個人の互恵的な協力行動にもこのような側面があるといえよう。 右の考察から、大きい割引因子のほかに、協力関係の成立を促進する重要な条件を2つ指摘することができる。

第1はゲームの繰り返される回数に関係する。 他の事情一定の下では、多いほど、協力均衡の生起する可能性が高く、全ゲーム期間内で協力関係の持続している期間の割合が大きくなる。
したがって終身雇用制は協力を醸成しうることになる。 第2の条件の値に関係する。
一方のプレイヤーからみて、相手のプレイヤーが非合理的である確率が高いほど、協力均衡の生起する可能性が高まる。 この確率はまったく主観的なものでかまわない。
つまり、多くの人間は協力的であるとプレイヤーが主観的に信じていると、実際に協力均衡が実現しやすくなる。 換言すれば、この確率は純粋な幻想に基づくものでもよい。
世の中の人間全員が実際はエゴイストでも、プレイヤーがそのことを知らずに(自分がエゴイストであることは知っている)、ある程度の割合で本来的に非合理的な人間もいると信じていると、協力均衡が実際に生起しうる。 幻想からも協力関係が生起しうるという事実は意味深長である。
すべての人間は本来的にエゴイストであると信ずるか、人間のなかには本来的に協力的である者も存在すると信ずるかは、かなりの程度文化の問題である。 後者の信念を醸成する文化は、たとえその信念が共同幻想であっても実際に協力関係を生起せしめうるので、生産の効率に寄与する。
近代経済学者は文化が生産性に影響するということを認めたがらない。 経済理論の教科書のなかに、生産効率が文化にも依存するという記述を見つけることは不可能であろう。
われわれは、文化が協力という行動を通して生産効率に影響するメカニズムを、ここに見ることができる。 文化はその国の生産性に確実に影響する。

したがって文化には「よい文化」と「わるい文化」とがある。 協力を醸成する文化は「よい文化」であり、そうでない文化は「わるい文化」である。
ある国の労働者は、自己の地位の相対的低下を恐れて、自分の獲得した有利な情報や技能を他者に教えようとはしない、という指摘を日本人の現地派遣社員からよく聞くことがある。 「わるい文化」の例である。
ただし文化に関するこの善悪判断は、文化が協力行動に影響して生産効率を上げるかどうかということにのみ基づいて行なわれており、その他の基準は考慮されていないことに注意する必要がある。 ここまでの議論を一言でまとめれば、適切な文化の下では、終身雇用制は関係する経済主体の間の協力を促進する傾向があるので、企業や労働者に利益をもたらす、ということになる(ここまでは主として一般労働者の間の協力関係を考察してきたが、同様な協力関係は、労働者と管理者の間や労使の間においても成立しうる)。
これに対し、終身雇用制の存在を説明する仮説として経済学で伝統的に提起されていたものは、企業特殊人的資本の概念に基づく仮説である。 その具体的な理論モデルは多様な形で表現できるが、ここでは筆者なりの方法でその仮説を概説しておきたい。
スーパー・マーケットで買物をするとぎ、次のような経験をすることがあるかもしれない。 すなわち、ある特定の商品の置いてある場所を店員に尋ねても、店員に知識がなく適切な答えが返ってこないという経験である。
なぜ店員はもっと学習して、有用な知識を蓄積しようとしないのであろうか。 その店員がパート労働者で、そのスーパーに長期間勤続することが確定していないからである。

近いうちにそのスーパーをやめるかもしれない場合は、その仕事に関連しているが他企業では有用でない知識を蓄積する誘因を持たない。 どの棚にどんな商品が並べられているかを記憶しても、そのスーパーをやめて他企業でパート労働をすることになれば何の役にも立たない。
仕事をする上で有用な知識や技能ではあるが、他企業では有用性(生産性)の劣るものは、企業特殊人的資本と呼ばれる。 雇用が安定していないと企業特殊人的資本の蓄積が阻害される。
逆に終身雇用制のように雇用の安定した状態の下では、それを蓄積する誘因が高まる。 企業特殊人的資本の他の例としては、他企業では使用されない機械の操作方法に関する知識、他企業では生産されない製品やサービスに関する知識・技能、勤務している企業に特有なルールや価値観を知ること、同僚の性格を知る(ことによって協働の効率を上げる)ことなどが挙げられる。
終身雇用制は労働者の学習意欲を高め、企業にとって有用(生産的)な企業特殊人的資本の蓄積を促進する。 たとえ企業がすべての訓練費用を負担しても、明日にも労働者を解雇することが普通であれば、労働者は企業に特殊な人的資本を真剣に蓄積しようとはしないであろう。
企業が雇用を保障してはじめて、労働者は企業特殊人的資本を蓄積する誘因を持つ。

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